議会活動

■2001年(平成13年)12月議会 代表質問

<①江戸川区におけるIT推進計画

木村 情報ネットワーク化は時代の要請であり、「地域IT推進のための自治省アクションプラン」、あるいは今年制定された「IT基本法」に基づく「e-Japan戦略」「電子自治体」構想に沿う形で、私たち江戸川区においてもIT化の推進、行政事務の情報化を積極的に推し進める「電子区役所」構想が準備されようとしている。その構想の原点は「いつでもどこからでも利用できる電子区役所」による、サービスの充実化、効率化、広域化にあると言える。

現在、二十三区の中で夜間や休日の住民票交付サービスが受けられない唯一の区であるという我が区の状況、また、立ち上げの遅れというハンディを背負い、まだまだ多くの未整備分野を抱えた区のホームページの改善の必要性などを考えれば、「いつでもどこからでも利用できる電子区役所」の実現によるサービスの充実化が図られることは、まさに区民がいま待ち望んでいること。

区は、この「電子区役所」構想、特に情報ネットワークの整備のために、具体的には、住民基本台帳ネットワークの構築、電子手続きによる行政サービス、区役所LANの構築などを課題として掲げている。

社会や行政のIT化、情報ネットワーク化という趨勢の中で、やや後塵を拝している江戸川区の現状を直視する中、区長が持つ「電子区役所」構想、情報ネットワーク化実現に向けた決意はいかほどのものか。その推進計画の戦略あるいはコンセプトを伺いたい。

区長 IT推進本部を11月に設け、まだこれから具体的に取りかかるという部分が多々ある。ホームページの充実、住基ネットの完成、戸籍、財務会計、LAN構築による事務処理の合理化などだ。区内の全てのコンピュータシステムを見直し、早急にいい方向を見つけ、実現させたい。

木村 区がIT化、情報ネットワーク化を推進していく際、常に問題となってくる事柄にデジタル・ディバイド、つまり情報技術に長けている者とそうでない者との間の格差の問題がある。情報格差あるいは情報リテラシー格差とも言われるが、これはサービスの恩恵を受けるべき区民の間ばかりではなく、IT化を推進する立場にある区の職員間にも存在している、あるいは存在してくるであろう問題だ。

例えば、区民の場合、ある者は端末やネットワークを駆使し極めて効率的に行政サービスの恩恵にあずかることができ、ある者はデジタル機器なるものは分からないという先入観があるため、自動化された区の窓口や交付機の前でおろおろしてしまう、極端に言えば、そんな場面が出てくるかもしれない。

あるいは、職員の場合は、ある者は事務の電子データ化やオンライン利用を能率的にこなし、多くの仕事をこなす一方で、ある者は端末の入力からソフトの利用の仕方までおぼつかなく、まともに仕事がこなせない、そんな能力差が生じてくるかもしれない。

行政運営のIT化、情報ネットワーク化の推進においては、経営企画部情報政策課を中心に準備を進めている。昨年11月には「情報化推進本部」を設置し、必要に応じ「情報化検討部会」を設け、また各主管課に「情報化推進リーダー」を配置した。そうした準備態勢をとる中で、特にデジタル・ディバイドの是正についてはどのような対策を講じていくのか。

区長 住民の方々にとって、コンピュータがわからないからサービスが受けられないでは申し訳ない。誰にも公平な行政サービスが受けられるような方策を用意しなければならない。また、職員においては、一般業務レベルのIT技能はマスターしてもらわないといけないと考えている。

 

<②江戸川区にとっての住民基本台帳ネットワークシステム構築のあり方>

木村 住基ネットシステム構築のあり方について考えてみたい。

住民票の交付という最も基本的な行政サービスを行う私たち自治体にとって、今回の情報ネットワーク化の具体的計画の中でも、平成14年8月にスタートする予定の住民基本台帳ネットワークシステムの構築は大きなテーマでもある。またこの住基ネットの問題は、そのシステム導入の根拠となる「改正住民基本台帳法」成立の際、国民総背番号制に道を開くのではないかという危惧や情報プライバシー権の問題などで議論を呼んだ。情報のデジタル化、ネットワーク化による利便性・効率性増大は、一方で、個人情報の漏洩、プライバシー侵害の危険度の増大も伴うという、情報化社会に潜む古くて新しい課題を改めて浮き彫りにした。

総務省は、住基ネットシステムを「地方分権、IT革命という地方行政をとりまく流れに対するための不可欠なインフラ」と説明。そして現在、三千三百の全国の自治体において、平成11年8月成立の「改正住基法」に基づき、住基ネットシステム構築への準備が進められている。

住基ネットシステムにおいては、中央の指定情報処理機関である全国センター・都道府県・区市町村の間がそれぞれ専用回線で結ばれ、国民一人一人にとって全国共通の本人確認システムが確立される。各自治体にはCSつまりコミュニケーション・サーバが導入され、行政サービスの効率化や広域化が図られる計画だ。

しかし、この住基ネットシステムの推進計画を、ただ単に、政府が決定した事柄だから右に習えで実施するというのでは、あまりに自治体としての分権意識に欠けることになる。住基ネットシステムの抱える利便性と問題点を理解したうえで、江戸川区ならではの、住基ネットシステムのあり方、運用の仕方が模索されてしかるべきだ。

そこで区長に伺いたい。江戸川区にとっての住基ネットシステムとは、あるいは江戸川区が目指している住基ネットシステムとはどのようなものなのか。

区長 住基ネットをめぐる法律論議がいろいろあったのは事実だが、法が成立した以上、参加しないというわけにはいかない。議論されている問題点については最大限に運用面でフォローしていかないといけない。

木村 住基ネットシステムの稼動に続き、翌年度からは、住民の希望に応じて住民基本台帳ネットワークカードとしてのICカードの発行も始まる予定だ。ICカードは、五百文字から八千文字にもおよぶ、磁気カードに比べても桁違いの情報量を記憶できる集積回路を持った、セキュリティの高いカード。マイクロ・プロセッサとメモリーを内蔵するICカードは演算機能を持ち、将来的には様々な情報を記録することにより多角的な利用が考えられている。

こうした自分自身の住基ネットカードを自動交付機に読み込ませることにより、窓口の人手を介さずに、時には他の自治体から、あるいは休日でも、自分の住民票の交付サービスを受けることができるようになるという。

e-Japan戦略」の中で提案されている「行政ICカード」は、今回発行される住基ネットカードを一つの基礎として、そのスペックを策定していくことにもなっている。

すでに昨年の9月から、岩手県水沢市では実際に、ICカードが本格的に導入されている。同市では、希望者に対し非接触型のICカードを無料で配布している。非接触型のカードなので、財布に入れた状態でも利用が可能。現在は、図書館の蔵書検索・予約、公共施設の予約、証明書類の交付などの機能を持っており、口座番号を登録することで施設利用料等をその口座から引き落とすことも可能である。

しかし、住基ネットカードあるいは「行政ICカード」の普及は、決して広域化の追求や利便性のアップといった良い側面ばかりではない。このカードに記録される個人情報の内容によっては明白なプライバシー権の侵害となる可能性もはらんでいる。

例えば、高齢者福祉サービスの利用状況といった個人情報を記録させることは改正住基法の目的を逸脱するおそれがないとは言い切れないし、それが本人の同意なく利用されるような手違いが生じた場合、基本的人権としてのプライバシー権の侵害にかかわる点からも違憲訴訟に耐えることは難しいと思われる。

住基ネットカードの基本的な様式や必要事項は総務省令で定められることになっているが、弾力的な利用を認められている自治体として、今後、住基ネットカードにはどのような情報内容を盛り込み、どのような江戸川区ならではの利用方法を考えていくのか、現段階での区長の考えを伺いたい。

区長 江戸川区独自の住基ネットというのはあり得ないと思うが、住基ネットを活用して、江戸川区が独自の付加価値を付けていくということはできる。例えば、住基ネットカードへの印鑑証明の付加など、法令との関係を整理して考えていきたい。

木村 住基ネットシステムの冒頭あるいは住基ネットカードの部分でも言及したが、情報のデジタル化、ネットワーク化は利便性・効率性増大の反面で、個人情報の漏洩やプライバシー権侵害の危険度も増大させる。その危険性と被害は、情報が中央一極に集中され、膨大になればなるほど大きなものとなる。しかもネットワーク上の電子化された情報は、これまでの紙の上に印刷された情報に比べ、アクセスと改ざんが容易であり、かつアクセスする時には一時に膨大な情報を入手しやすく、また改ざんの形跡は紙の上のインクを修正するようには残らない。

さらに、情報プライバシー権の侵害は、ハッキングなどの不正なアクセスによる場合ばかりではなく、担当者のモラルの低下や、正当なアクセスによる場合でも権力の逸脱などによって、もたらされる可能性がある。

最初にプライバシー権が提唱されたアメリカでは、情報技術の進展に伴うプライバシー保護の問題に対処するため、現在では「自己情報コントロール権」「情報プライバシー権」と言われる権利が連邦法や各州法において規定されている。日本でも今やプライバシー権は憲法上の幸福追求権の中に位置付けられ、保護されるべき基本的人権の一つとして理解されており、また「情報プライバシー権」と言われるものも同様の理解を得ている。

これまで住基ネットシステムについて「個人情報の保護などで問題がある」と述べ、その導入に慎重な姿勢をとってきた杉並区では、平成13年9月の議会において、全国初となる区独自の「住民基本台帳に係る個人情報の保護に関する条例(通称、住基プライバシー条例)」が制定された。これは、住基ネットシステムの適正な運用を確認し、住民情報の漏洩や不正使用を明確に規制する条例だ。

同条例の第三条において、区長は「住民票記載事項の漏えい、滅失又はき損の防止その他の安全管理のために必要かつ適切な措置」を講ずるとし、第六条において「住民票記載事項の漏えい又は不適正な利用により、区民の基本的人権が侵害されるおそれがあると認めるときは、国、他の地方公共団体、指定情報処理機関その他の関係者に対し報告を求めるとともに、必要な調査を行」うとしている。つまり、杉並区では、不適正な利用により区民のプライバシーが侵害されるおそれがある時には、区民を守る義務を負う区長の立場から、国や地方公共団体との回線を遮断することを定めている。また、同条例においては、住民票記載事項の漏洩等を行った者がその情報の回収に応じなかった場合には、五万円以下の過料に処するという規定も盛り込まれている。

総務省は当然、杉並区が制定したような「条例がなくても個人情報の保護は十分」であるとコメントしているが、杉並区の住基プライバシー条例が法曹界からは逆に情報プライバシー権を明確にうたう画期的なものとして評価する声があるのも事実。

我が区にもすでに江戸川区個人情報保護条例が存在するが、その条例のままで、住基ネットシステムをはじめとした高度に電子化されていく個人情報、一極化されていく個人情報、ネットワーク化されていく個人情報を、十分に守ることができるのか。

区長 原則的には、現在の条例を適用すれば、もろもろの問題は解決できると思う。ただ、ネットワークシステムを構築していく中で、手直しが必要な部分が出てくる可能性がないとは言えない。

木村 私の今回の質問のタイトル中に敢えて「江戸川区にとっての」あるいは「江戸川区における」という文言を加えているのは、我が区としての独自の情報技術戦略を描いていきたいという思いがあるからにほかならない。

住基ネットシステムにしても、単に総務省の指示に基づく、全国三千三百の自治体と同じ金太郎飴的なシステムにしたくはない。それは便利さという側面の独自性だけ求めるということではなく、システムの安全性と信頼性における独自性の追求でもある。そこで、一つの提案として申し上げさせていただく。住基ネットシステムの稼動と運用に万全を期すためにも、改正住基法施行令としての性格付けによる、区独自の仮称「住民基本台帳事務取り扱い条例」なるものを考えてはどうか。

区長 住基ネットのために区独自の条例というのは馴染まないと思う。杉並区の例も承知はしているが、ごく当たり前のことを規定しているだけの話だと思う。

 ただ、コンピュータの運用は仕組みが完璧にできていたとしても、最後はそれに従事する職員のモラルの問題となってくる。機密が漏れていく可能性は、あり得る話だ。そういったことが最大限起こらないようなシステムの構築と職員の啓発活動に取り組んでいきたい。

木村 今回の質問の中で、私が最も訴えたかった点は二点ある。一つが情報ネットワーク化の充実によって大きな行政サービスの向上が望め、また飛躍的に行政システムが効率化するという点。もう一つが、そのいっぽうで電子化されたデータが、しかもなおこれがオンライン化されていく状況の中で、プライバシー保護の問題が喫緊の課題となっている点。

 住基ネットカードに関しては、総務省令も含め、まだ全てが固まっているわけではない。今後、国の政策論議の中で検討されていくはず。区の対応もそれを待たざるを得ない。

 しかし、個人情報保護条例についてはすぐにでも考えていただきたい。区独自の条例は考えていないという区長の考えはそれとして尊重する。しかし、現行の条例には、インターネットやオンラインで結ばれている状況下、何らかの不正アクセスや逸脱した利用などがあった場合、積極的にオンラインを遮断するというような措置をしたくても、法的な規定が盛り込まれていない。情報インフラの進展は、普通のものが一年で進展するその度合いよりも、二倍、三倍のスピードである。そういった状況に対処するには、遅かれ早かれ、条例を俊敏に見直していかなければなるまい。

ぜひ今後、区のIT化においては、利便性の追求と同時に、システムの安全性、信頼性の構築にも気を配りながら、独自性のある展開を願いたい。

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